虫垂炎の治療には、手術療法と薬物療法の2通りあります。虫垂炎の薬物療法には、「薬でちらす」という表現がよく使われますが、抗生剤の殺菌作用で細菌の増殖を止め、炎症を抑える治療です。今回は、虫垂炎に用いられる抗生剤についてまとめます。
虫垂炎の治療法
昔は、虫垂はあってもなくても特に問題のない臓器と考えられ、虫垂炎になると虫垂の摘出術が行われることが主流でした。
しかし、最近では、虫垂には腸内細菌のバランスを保ち、腸内の免疫機能をコントロールする働きがあるといわれています。
そのため、軽症で腹膜炎などを合併していない場合は、抗生剤の投与で保存的治療が行われるケースが増えてきました。しかし、この場合、再発のリスクがあるようです。
薬物療法に使用される抗生剤
セフェム系抗生剤
虫垂炎の場合は、大腸菌をはじめとする腸内細菌やその他、広範囲の細菌に殺菌効果のあるセフェム系抗生剤を使うことが多いようです。
セフェム系抗生剤には、開発された時期により世代があります。世代により、高い抗菌効果を示す細菌が異なってきます。
それぞれの特徴は、以下の通りです。
- 第一世代セフェムは、黄色ブドウ球菌やレンサ球菌などのグラム陽性菌に作用が強く、大腸菌などのグラム陰性菌には作用が弱い。
- 第二世代セフェムでは、グラム陰性菌にも効くようになってきました。
- 第三世代では、グラム陰性菌に作用が強くなり、グラム陽性菌への作用が弱くなりました。
- 第四世代では、グラム陽性菌にもグラム陰性菌にも作用が強くなりました。
虫垂のある下部消化管の細菌による炎症の場合は、大腸菌などのグラム陰性桿菌、嫌気性菌が原因であることが多いため、これらの菌に対して効果が強い第三世代セフェムが、選択される場合が多いようです。
また、β-ラクタマーゼという抗生剤を無効にしてしまう酵素を産生する菌も多いので、この酵素の働きを止めるβ-ラクタマーゼ阻害剤を含むセフェム系抗生剤が選択される場合もあります。
- セフジニル(セフゾン):内服薬
- 塩酸セフカペンピボキシル(フロモックス):内服薬
- セフォタキシムナトリウム(クラフォラン):注射薬
- スルバクタムナトリウム・セフォペラゾンナトリウム(スルペラゾン):注射薬
*スルバクタムナトリウムは、β-ラクタマーゼ阻害剤です。
また、それぞれのお薬については、以下の記事でも詳しく紹介しています。
ニューキノロン系抗菌剤
虫垂炎に対して、ニューキノロン系抗菌剤が使用されることも多いようです。ニューキノロン系は、合成された抗菌剤であるため、「抗生剤」ではありませんが、細菌のDNA合成を阻害して殺菌作用を示す抗菌剤です。
ニューキノロン系抗菌剤には、「シプロフロキサシン(シプロキサン)」というものがあります。
まとめ
虫垂炎の薬物療法によく用いられる抗生剤は、セフェム系抗生剤です。虫垂炎は、放置しておくと、腹膜炎起こし命の危険もある病気です。みぞおちから下腹へ移動する腹痛には、がまんせずに、早期に医師の診察を受けるようにしましょう。